7年ほど前に行ったポルトガル一人旅の旅行記を綴っています。最終話の公開です。これから読まれる方はまずは第5話までをお読みください。
リスボンからコインブラへ
コインブラへ行く新幹線の中、わたしの感情は無だった。今日は携帯を探すと決めた。だから見つからなくても後悔はしない。これがわたしの選択だ。
新幹線の座席に座っていると、とても可愛らしい小学生くらいの女の子とそのお母さんが向かいに座った。ポルトガルでアジア人は珍しいようで、女の子がかなりわたしを見つめてきた。
わたしもつい見つめてしまい、沈黙のひとときが流れた。
子どもは可愛いなぁ。横を見るとひまわり畑が続いている。のどかな風景が続いた。ポルトガルに一週間ほど滞在しているとこれが普通だと思ってしまうが、とても価値のある一瞬だ。
コインブラの駅にて
2時間かけてコインブラの駅についた。即座に駅のトイレに向かう。電話で確認したら「ない」って言われたけど、信じられない!自分の目でみて確かめなくては納得できませんわ!
と、張り切ってトイレを隅々探してみたのだが、、なかった。泣
早々に当てが外れてしまい、出鼻を挫かれた。なんということだー。。
でもこれでめげてはいけない。次はどうしようかと考えた。トイレにないのであれば、きっとタクシーで落としたんだ!
突拍子もない作戦
そういえば、あのタクシーはプジョーだった。よし!プジョーのタクシーを見つけて確認すればいいんだ!これは完全にアホな発想だ。でも自分なりの最善策がそれだった。
というわけで、わたしは街中を走っているプジョーのタクシーを血眼で探して、ひたすら声をかけては「アイ ロスト マイ セルフォン!」と呼びかける奇行を続けた。
しかし、当然ながら見つけることは、、できなかった……。(心の中では、そりゃそうだよねと泣いていた。。)コインブラの警察にも行って聞いてみたが、「届いていないね!」と言われてしまった。
もう成すすべは、、ない。だめだこりゃ。
ポルトガルは暑い。わたしはもともと暑い方が好きでポルトガルの気候を気に入っていたが、この時初めてうだるような暑さに嫌気がさした。
直射日光がきついし、何よりお腹が痛くなってきたのだ。つらい。ぜつぼう。
お腹も痛いし絶望。ひとやすみ
バカらしくなって観光することにした。そういえばコインブラはかなりタイトなスケジュールで観光してしまったなぁ。よし。ゆっくり散歩でもするか。
もうプランも何もないので、時間を気にせず気の向くままに歩いてみた。カフェでオレンジジュースを飲んで脱力。はあ。
なんとも言えない敗北感を感じていると、「コンニチワ!」と女性に声をかけられた。まさかの日本語だ。
その女性はシルビアさんと言う人で、日本語を勉強中のポルトガル人だった。「あなた、日本人ですか?京都は最高ね!いつか行ってみたいです。」
久々の日本語にテンションが上がりつつ「ポルトガルの方が最高です!」みたいなことを言った。シルビアさんとの交流で少し元気がでた!
新幹線が来るまで40分
もう帰ろう。やるだけのことはやった。新幹線が来るまで40分ほど時間があったが、駅に向かって広場でやり過ごすことにした。
ひまだ。それにしてもポルトガルは田舎でのどかだ。コインブラは人がそんなにいないし、駅前に並ぶタクシーのおじちゃんたちもひまなのか、車から出てぴよぴよと立ち話をしている。
ひまだ。あっ、そうだ。ダメ元で最後に話しかけてみるか。。やけくそになりタクシーのおじちゃんたちに声をかけた。「オラ!(ポルトガル語でこんにちは)アイ ロスト マイ セルフォン!」
突然声をかけられて、おじちゃんたちはあわあわしていた。「えっ、英語?僕たちわからないよ〜、ちょっと待っててね、英語わかる人連れてくるから!」みたいなことを多分ポルトガル語で言われた。そして、最後尾に並んでいた比較的若めのお兄さんが来た。
「オラ!アイ ロスト マイ セルフォン!」
えっ、まじー!?みたいな反応をされた。この30代くらいのお兄さんは優秀なやつらしく、周りにいたおじちゃんたちに携帯がないらしいよと伝えた。一同は、えー!それは大変だぁ!みたいな反応だ。
そしてこれが運命の転機となったのである。誰かが無線で、ジャパニーズガールが携帯を無くしたらしいということを会社に共有すると、、
なんと、あったのだ!!!
「携帯あったって!やったね!」みたいな感じでおじちゃんたちはポップなテンションで笑いかけてくれた。
えっ!!!!?
「今から届けにくるから待っててね〜」と若めの運転手さん。
えっ!!!?ほんとに…!?どれだけ探してもなかったのに…?
ドキドキしながら10分ほど待っていると、一台のタクシーがやってきた。
その運転手さんは昨日コインブラの駅までわたしを届けてくれた、あの「お釣りはいらねぜ!」にとても喜んでくれた、人の良さそうなおじちゃんだ!
車に入っておじちゃんとちょっと話してみた。「これが君のだよね」渡されたのは、紛れもなく自分のアイフォンだった!奇跡でしかない!
「わーお!マイ アイフォン!センキュウセンキュウ!」
話を聞いてみると、どうやらわたしはタクシーの中でポケットから携帯を落としていたようだ。おじちゃんはその時に気づいて声をかけたのだが、わたしが走り去ってしまったので、携帯が手元に残ってしまい、とりあえず預かっていたとのこと。
よかったぁ!!
おじさんは「他の国だったら普通はこんなことはないけど、ここはポルトガルだからね〜。よかったね!」みたいなことを陽気に語っていた。
わたしはなんだか泣きそうになってしまった。携帯が、あった…!!
精一杯考えて出た感謝の言葉は「ユーアーベリーカインドマン!」だ。
これくらいの英語力でもなんとかなることがわかった。
あれ、わたしはハッとした。やばい!もうすぐ新幹線が来る…!
時間に余裕がないことで痛い目にあったばかりなのに、わたしはまたもや急いで別れを告げた。またね、おじさん!
今度は携帯をきちんと握りしめて走った。また新幹線で2時間かけてリスボンに戻ったが、行きと帰りでこんなにも気持ちが変わるなんて。
リスボンにて挨拶
無事携帯が見つかったので、マッスルファイアのところにも行った。携帯を見せながら、
「これがわたしのアイフォンだ!」というと、「まじかい!キミはスーパーラッキーガールだ!」と褒めてくれた。やったぁ!携帯も無事に見つかったし、イケメンにも褒められたので満足だ。
もう何も悔いはない。その夜の飛行機に乗ってわたしの大冒険が終わった。
人生においてとても濃厚な時を過ごした一週間。
外国に行く時はいつも英語が話せる人の後ろについていくだけだったけど、初めてのひとり旅はそういうわけにもいかない。英語が話せないなりにもいろんな人と話し、助けてもらった。
時間には余裕を持つべきことや、最後まで諦めたらいけないこと、人はやっぱりあたたかいことなど、身をもってたくさんのことを学べたような気がする。
これは自分にとって間違いなく貴重な経験だ。
(帰ってきた一週間後に携帯の画面を割ってしまい、早速新品を買う羽目になった事はあまり大声では言えないのだが……。)
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